図書館を作っているのに本を読む暇がない!
これはいかんと思いながら日々は過ぎ。しかし、ある日、高松と男木島を結ぶ定期船「めおん」に乗り遅れ、手元には文庫本。もろもろ諦めてがっつりと次の船までの2時間、本を読みました。
それが三浦しをんさんの「光」です。
私としをんさんの本との出会いは「風が強く吹いている」でした。そして「舟を編む」。「風が強く吹いている」は箱根駅伝の話ですし、「舟を編む」は国語辞典の話です。でも何故かタイトルに海の香りがしませんか?
他の物語も読んでいるのですが、そんなこともあってか上記2冊は特にお気に入りです。
今回、手に取った「光」は島から物語が始まります。
読んでみて意外だったのは。かなり骨太な物語でした。これまで読んだしをんさんの本は、温かみのある所謂「良い話」が多く、勝手にそれを持ち味だと思っていたのですね。「光」はまた違った側面を見せてくれた小説でした。
本の裏表紙にあるあらすじを引用します。
島で暮らす中学生の信之は、同級生の美花と付き合っている。ある日、島を大災害が襲い、信之と美花。幼なじみの輔、そして数人の大人だけが生き残る。島での最後の夜、信之は美花を守るため、ある罪を犯し、それは二人だけの秘密となった。それから二十年。妻子とともに暮らしている信之の前に輔が現れ、過去の事件の真相を仄めかす。信之は、美花を再び守ろうとするが———。
この物語は力で溢れています。
それは圧倒的な暴力であったり、圧倒的な魅力であったりします。災害という力、そして登場人物たちはそれぞれがそれぞれの力を持っているのに、まるでそれに気づいていないようです。
自分のことには気づかないというのは、とても人間らしく、人の汚らしさや暗さはまた別の力を生んでいくようです。
しかしその物語の暗さに比べてタイトルは「光」です。
色々な解釈があり、作者の三浦しをんさんはあるインタビューで、「暗い話だからその逆を行って『光』でいいだろうという安直な発想だった」「人を暗いほうに導く光も、あるんじゃないかな」(※1)と仰ってもいるのですが、私は、光と影の対に思いを馳せました。
光のあるところには影が生まれます。逆も然りで、影のあるところには光があるとも言えます。
———濃い影は強烈な光の下にある。
人は光に惹かれがちです。でも、同様に影に惹かれることもあります。
また光に憧れるあまり、自分は影と思い込み、余計に影に向かっていくことも。
この物語は「なかなか無いこと」を書いているようで、実は私たちの隣にあることなのだと思います。
津波から始まるこの小説は、2006年に書かれたものだそうです。私が先に読んだ「舟を編む」はこの物語の後に書かれたものだそうで、圧倒的な暴力の後に来る光と暖かさと考えると、2冊とも未読の方はその順番で読んでみるのも面白いかもしれません。
※1 集英社 文芸単行本公式サイトRENZABRO 「三浦しをん『光』刊行記念スペシャルインタビュー」より