9月10日から男木島図書館では文本貴士氏による
男木島大祭写真展「なみまにひびく」がお披露目となりました。
うわさを聞きつけた島の人たちが次々に足を運んでくださり、
図書館はいつも以上ににぎやかな雰囲気に包まれました。
それとは対照的に、先週末はどこか厳かな空気に支配されていた館内。
その空気の渦の中心を為していたのは、杮落とし展として図書館設立当初から
文芸家の肖像写真展「著者近影」を展開してきた松蔭浩之氏でした。
約半年間にわたった展示の終了に合わせて開催した
クロージングトーク&サイン会で彼が語ったこととは一体何だったのでしょう。
男木島図書館発行『著者近影』本に特別寄稿が掲載されている構成作家・三宅顕人氏と
男木島図書館館長・額賀(福井)順子を対談相手に、展開されたトーク内容を以下まとめてみました。
(要所要所、ミッキーによる編集の色濃いめですが何卒ご了承くださいませ)
三宅|やはりお伺いしたいのは今回の『著者近影』について。
この展示に至るまで、どんな道のりがあったのでしょう。
松蔭|2010年の頃、他の仕事は一切せずに作品制作に集中して取り組むも
売れずに家賃もろくに払えないほどすっからかんの状態になって。
「いよいよやばいぞ」と追い込まれていたところ、
2011年に「週刊『女性自身』で写真を撮ってみないか」って
元々お世話になってた編集者の人からオファーをもらったのが転機になった。
三宅|その写真というのが、文芸家のポートレートだった訳ですね。
松蔭|そう。声をかけてもらったのが書評コーナーで使う文芸家の写真だった。
自分の他にもカメラマンは何人かいたから、最初は代替要員ぐらいのつもりでいたんだけど。
それが文章を担当しているライターの品川裕香さんの取材に初めて同行させてもらった時、
「この人の取材は面白くて良い。自分にとってもプラスになるものが得られる」
そんなふうに確信して、今後は何とか自分ひとりに写真を任せてもらいたいと思ったんだよな。
それで周りに頭を下げて毎週品川さんの取材に同行させてもらうようになってから
もうかれこれ4年半、撮ってきた著者のポートレートも300人を超えたね。
三宅|300人超とは驚きですね!毎回撮影はどんなふうに行うのでしょう。
松蔭|品川さんが著者にインタビューする時間はいつも1時間ほど。
その間に被写体をじっと見てると人となりや決まりの良いポーズ、
撮られたくないであろうウィークポイントなんかが自然と分かってくるから
インタビュー後に1、2枚撮るだけで済んじゃう。
著者もそれで納得してくれちゃう分、責任感はあるけどね(笑)
ただ、肉眼で見るものは非常に曖昧で、自分の都合の良いように
脳内で補修を加えちゃうから単に「鑑賞」しているだけじゃ
それが本当に見え方としてベストな状態なのかは分からない。
そこをひとたび写真に撮って平面に置き換えることで、
「鑑賞」していた対象が「観察」できるものになる。
だからインタビュー中も「このアングルどうかな?」と思うことがあれば
試し撮りはどんどんしてみるけどね。
三宅|なるほど。ところで、今回の『著者近影』展では
数あるポートレートの中から30人の写真がピックアップされましたね。
何か選定基準があったのでしょうか。
松蔭|そこは館長にお任せしたね。
オレは名前が上がってきた著者や出版社の人たちに
写真使用の許可をもらうためにメールでやり取りはさせてもらった。
額賀|松蔭さん、その節は本当にありがとうございました…!
今回の30人は、みんなに読んで欲しいと思う本を書いている人、
「こういう顔をしている人がこういう本を書いているのか」と
感じながら読んでもらえると良いなと思う人を選びました。
あとはジャンルを幅広くできたら、と。
三宅|展示を見た人の反応は実際どんなものでしたか。
額賀|展示自体が図書館という場所にハマりすぎていて、
「(許可を得ずに自主企画で)勝手に展示してるの?」という反応が
結構見られたのは意外で面白かったな、と。
あと多かったのは、著者の顔か著書のいずれかは知っていたけど
両者が結びついていなかったという反応でしたね。
例えば「『深夜特急』で正統派のイメージが強い沢木耕太郎さんが
まさか絵本を描いているなんて…!」という感じに。
三宅|興味深いですね。では今度は松蔭さんにお尋ねしますが
なぜ展示名に『著者近影』という言葉を使われたのでしょうか。
日常的に使う言葉ではないような気もするのですが…
松蔭|オレ的には『著者近影』ってのは畏まった言い方じゃなくて
普段使いのボキャブラリーにあった言葉なんだよね。
でも最近はこの言葉を知らないって人、本当に増えたよね。
以前学生向けの授業で『著者近影』を知ってる人に挙手するよう求めたら
何百人も入るような大教室で手を挙げたの、たったの2人だけだったからね。
三宅|それには著者があまり顔を出さない近年のラノベブームが背景に…?
松蔭|それはどうか分からないけど、近頃の子はSFのように
現実離れしていて感情移入できない話は好まない傾向があるな。
自分ばかりにベクトルが向く人間が増えて、そもそも
話を生み出した人がどんな人かなんてことには関心がないんだろうか。
オレの場合は話でも何でもそうだけど、素晴らしいものに出会ったら
それを為した人がどんな人か気になって仕方ないけれど。
三宅|学生の話が出ましたが、松蔭さんは学生時代から
写真家として活動することを目指していたんでしょうか。
松蔭|もともとは絵をやっていたけど途中で挫折してね。
そんな時に、篠山紀信の写真に出会った。
彼の写真集『激写・135人の女ともだち』に写る
女性の美しさにすっかり魅了されたのと同時に、
撮り手と被写体という距離に憧れを抱いて。
「写真家になって自分も彼女たちの近くに行こう!」と決心して
大学受験に臨んだワケ。当時はまだ若かったから
こんな不純な動機でも正当な理由になっちゃうからなァ(笑)
松蔭|当時思い描いていたように今は写真で仕事をさせてもらってるけど、
自分が撮りたいものと被写体が撮ってほしいものは必ずしも一致しないから
自分主体でいくのか、相手主体でいくのかで
オレは「写真家」なのか、「カメラマン」なのか。
日本の造語に過ぎないんだけど、どっちなんだってのはずっと分からなかった。
だけど『著者近影』のような写真の場合には何を差し置いても
「良い写真を撮ってね」という相手の気持ちに応えたいし、応えようと思って撮っている。
だから「オレは『カメラマン』としての仕事をしてる」という自覚を今ではするようになったな。
松蔭氏の写真に向かう姿勢から、彼の真っ直ぐな人間性が垣間見えたところで
約1時間半にわたって繰り広げられたトークは熱を帯びたまま幕を閉じました。
松蔭氏と彼の写真とともにあった日々は、図書館という場を育むのに
充分すぎるほどのインパクトをもたらしてくれました。
残念ながら『著者近影』を全身で体感できる場はなくなってしまいましたが、
『著者近影』本は引き続き販売を実施しておりますので
ご来館の際にはぜに手に取ってご覧になってみてくださいね。